
初めてパラウイング(19ft)を見たのも、モスという名前を知ったのも『BE-PAL』誌上だったと思う。それまで「いかにタープをピンと張るか」に腐心していたのが、目からウロコの曲線美だった。まるで風に浮かぶ一羽の鳥のような姿は、心底美しいと思ったものだ。
ウイング型というスタイルも斬新だった。小さなレクタ型を目いっぱい有効面積を稼ごうとして使っていた自分にとっては贅沢な使い方だったが、ポールを2本しか持たない者として「そうか、こういう使い方があるんだ」と盲点を突かれた気がしたのだった。

数年後、R.E.I.の組合員になってカタログを見ていたぼくは、ページをめくっていてパラウイングを発見した。近くに取り扱っている店も無く、高嶺の花と思っていたパラウイングが、当時の円高の中で手の届くところにあった…のだが、スチールポールが付属した19ftは国外出荷不可であり、買うことができたのはポール無しの12ftだけだった。それでも、まだ独り者だった自分には充分な大きさだと思い、すぐさま注文した。
今にして思えばこれに180cmを越える長さのポールは不釣合いだったように思う。150cmくらいが適正ではないだろうか。下にテーブルを置いたときのクリアランスや有効面積なども充分に取りたいがために高い位置まで持ち上げたため、逆に思い切り広げられなくなってしまったことのほうが多かったような気がする(広げて張るには相当離れたところまでロープを延ばしてアンカーペグを打つ必要がある)。そのため、正直言って初めて雑誌で見たときのような惚れ惚れするような曲線美は我がサイトでは再現できないことの方が多かった。
もちろんそれでも楽しく、そして便利に使ったものだ。
だが、さすがに結婚して家族、いや道具が増えるとこのサイズでは手狭になり次の大型タープに取って代わられることになった。
昨年(2004)の夏、16年ぶりだかで野反湖でキャンプをすることになった。サイトまで、駐車場から10分以上歩かなくてはならない。いきおい装備を厳選することになるのだが、ここで久しぶりにパラウイングを持って行くことにした。なにせ、こいつは畳むとVHSのビデオテープ3本パックほどの大きさになり、その気になればマウンテンパーカーのポケットに入れてしまえるほどなのだ。このときは椅子も無し、地面に直接座るスタイルで設営したのだが、それに合わせてタープも低く張り、初めてこのタープの良さというか美しさが発揮できたのではないかと思ってしまった。
だが、時すでに遅し、タープの痛みは激しく防水コーティングが溶けてベタベタ生地同士がくっついてしまっており、広げるのが大変だった。最後に使ったときの仕舞い方が悪かったのだろうか。タープに申し訳ないことをした。
モス
(1988年購入)
1975年にビル・モスが創設。テントに「機能美」という概念をもたらしたブランドで「スターゲイザー」というテントはMoMAの永久所蔵品に選ばれているほど。のちにR.E.I.、カスケードデザイン社に買収され、2001年にカスケードデザイン社傘下のMSRブランドのテント部門となり、MOSSブランドは消滅した。モス教信者と呼ばれる根強いファンがいる。