
仕事の関係で機械工具の見本市に行くことがある。本来は工場の主任とか町工場の社長とかがターゲットなのだが、シビアな商談は別の機会にして、とりあえず今日は見本市、家族連れで来ても楽しめるように家電品や服飾品などもおいてある。
そんな中に『特売品コーナー』なんていうのもあり、家庭用の雑貨品やら弱電品などが並んでいるところに椅子があるのを見つけてしまった。よくL.L.Beanなどのカタログで見かけて少しは興味があるけど、わざわざ海外通販で取り寄せてまで買おうとは思わないという微妙なモノ。それが2,000円という貼り紙をつけて目の前に2脚ある。
これまで折り畳みかと思っていたのだけど、近寄って見たら、背もたれの枠の中に座面を通して十字に組み合わせる仕掛けになっていて、使わない時は枠の中にはめ込んでしまって一枚板のようになるという、なかなかシンプルな仕掛け。それが2,000円という貼り紙をつけて目の前に2脚ある。東南アジア製のパクリ品かと思ったら、ちゃんとMADE IN U.S.A. バイヤーという名の通ったメーカーの品である。それが2,000円という貼り紙をつけて目の前に…あはは、ちょっとしつこすぎるか。

さて、これを見つけたのは見本市の最終日の午後。あと数時間もすれば展示品を片づけてトラックに積んで帰ることになるのだろう。こういった展示会では最終日にトラックでやって来て「運賃かけて運ぶんやったら、ワシが持って帰るから安うせい」と買い取ってしまう人もいるという話も聞いたことがある。この椅子は展示品ではないけど、売れ残って持って帰るなら安く売ってしまえということになるんじゃないかな? どうせお客の雰囲気を盛り上げるための特売コーナーだろうから。
そう、2脚まとめて買って安くさせようと腹づもりで「ねぇ、これ2脚だけ?」と店番の若手社員に声を掛けたら「いえ、4脚あるんです。全部買うてくれたら勉強しますわ」…あ、先に言われちゃった。むむむ、それにしてもあと2脚隠してあったとは。で、いくらと訊ねたら現金で買ってくれれば6,000円だと言う。4つも要らないんだけどなぁ。でも、1脚3,000円で買ったつもりで、予備が2個と思えば・・・1脚3,000円までなら出してもいいなと思える品だしな・・・「よし、買った!」
板状になるとはいえ、4脚も抱えると結構かさばる。見本市会場入り口近くで梱包機を展示していたメーカーがあったので「実演してくれ」と縛ってもらってクルマまで運んで帰ってきたのであった。
ところで、L.L.Beanのカタログ写真などを見ると、ビーチとかそよ風の吹く芝生で気持ち良さそうに使っているのだが、そういう目的で買ったのではなかった。実は当時、家にいるときは食事のとき以外は頭が床から50cm以上の高さに上がったことがないというくらいの『ゴロゴロ寝たきり状態』。頬杖ついて床に横になったまま子供たちに向かって「これ、もっとテレビから離れなさい」とか「ちゃんと座って牛乳を飲みなさい。行儀が悪い」などと怒っても説得力に欠けるのではなかろうか。そんな気がして座椅子代わりに使おうと思ったのだった。
しかしそれなら1脚あればいいわけで、こんなのが部屋の中にゴロゴロしているのも迷惑だろうなぁと不評を覚悟で持ち帰ったところ、思った以上に座り心地が良いので妻もこれなら気に入ったと表情から険しさが消えていった
(ただし、購入費用までは面倒見てくれなかったけど)。さすがに家族全員でこれを並べてテレビを観賞するということはないのだが、常時2脚が部屋の中にあって、ときどき子供たちも座っていたようだ。
一見すると座面の奥行きが短くて座りにくそうだが、太腿の裏が座面に当たらないので圧迫されないのが楽なのだ。また、嫌でも深く座る姿勢をとることによって背筋が伸び、結果的に疲れないというのも良くできていると感心した。ただ、重心が後ろに寄っているので、ちょっと前かがみになるとひっくり返ってうのが難点。だから乗り降り
(って表現はおかしいかもしれないが、「立ったり座ったり」というよりは実情に即しているような気がする)の際には馴れが必要。それと本や新聞、湯呑みやグラスなどを取る時には必ず横に置いたものを取るように心がけるのがコツ。外国映画で見かける、リゾートで過ごす主人公が気だるそうに手を横に伸ばして傍らのカクテルを取るシーンは伊達じゃないというのが判った。
とまぁ室内でリゾートごっこをしていたところ、この椅子を買った翌月に『BE-PAL』というアウトドア雑誌で「アウトドアグッズを家具として使う」特集を組んでいて、この椅子も載っていた。自らの先見性に思わずニンマリしたのだが、付記された価格を見てビックリ。なんと9,800円! …腰が抜けて椅子から立ち上がれませんよ。
そうやってしばらく使っていたのだが、やがてまた「ぐうたらゴロゴロ」の生活に戻ってしまい、ロフトの奥に何年も仕舞っておいたのをネットオークションで売ってしまった。2脚は最後まで未使用のままだった。

余談ですが、今回この記事を書いていて初めて、商品名が「
メインラウンジャー(The Maine Lounger)ということを知りました。会社がアメリカのメイン州にあることかららしいのですが、L.L.Beanにも「メインハンティングシューズ」という定番の靴があるように、メイン州製品は誇りを持っているようです。
「見た目は座りにくそうですが、これが快適。お尻に根っこが生えること間違いなし」という感想を書いてある
ブログを見つけました。まったくその通り…あの座り心地を思い出してしまいましたが、あの頃よりもお腹が出てしまっているのがちょっと気がかりです。