
「まつおサン、これ知ってる?」
キャンプ場で友人が見せてくれたケトルの蓋の裏、ツマミの反対側の位置にオスネジが切ってあった。
「ここにプリムスのバーナーがつけられるんだよ...」
クルクルと、まるでカートリッジを取り付けるかのようにバーナーの下にケトルの蓋をねじ込んだ友人は、その状態のままケトルにかぶせてしまった。つまり、ケトルが2243バーナーの収納ケースになったわけで、これには感心した。でも…
「ウチのバーナーには自動点火がついているから、入れるときに引っかかってダメなんじゃない?」
「大丈夫だよ。ちょっとコツがいるけどね」
友人は自動点火装置がついた我が家のバーナーに取り替えてみて、ちょっと知恵の輪をいじくるかのように捻るように傾けていたが、これまた見事に収まってしまった。
「ほらね」
キャンプから帰ったあと、我が家がこのケトルを買いに走ったことは言うまでも無い。
友人のものは無塗装だったが、我が家はちょっとお洒落に赤く塗られたものを買った。これがテフロン加工みたいな塗装で、煤や汚れがつきにくいのは結構だったが滑りやすく、下のバーナーが傾いているとツツツーっと落ちそうになることもしばしばだった。

ツーバーナーが青い色だったので、この小さな赤いケトルはテントサイトの素敵なアクセントになり、サイトを離れて遊んできても、戻ってきたときに我が家に帰ってきたんだという嬉しいようなホッとした気分になれたものだった。
もちろん一年中キャンプ生活ということはない。だから家の中でも使っていたのだが、お湯を沸かすという用途ではなかった。その頃はあまり使わなくなっていたコッヘルと一緒に子供の玩具と化し、積み木などと一緒に箱の中に転がっているうちに蓋が見つからなくなってしまった。すでに別のケトルも買って使っていたのでキャンプで困るということは無かったが、蓋の裏にバーナーを取り付けて収納できるというギミックが気に入っていただけに、その蓋が見つからないのは残念だった。それにだいいち蓋が無ければケトルとして使うことができない。
「引っ越すときに出てくるだろう」
と思っていたのだったが、やっぱり出てくることは無かった。
トランギアは、1925年に創業されたスウェーデン中部のTrangsvikenにある、コッヘルとアルコールバーナーのメーカー。アルコールバーナーはオートキャンプではなじみが薄いが、学校の理科室やコーヒーサイホンで使うアルコールランプのイメージから侮っているとビックリするほど火力がある。燃料は世界中どこでも簡単に手に入るので(薬局に行けば売っている)、そういう意味では実用性抜群なのだ。